横浜美術館のエントランスホール。尹秀珍の大作の奥のアクリルの箱がオノ・ヨーコの作品 |
ミルチャ・カントル「Tracking Happiness」(2009年)の一場面 ©2009 Mircea Cantor |
荒木経惟「被災花」(2011年)の展示 |
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3年に1度の現代美術の祭典・横浜トリエンナーレが、新しいスタートを切った。6日に始まった第4回展「ヨコハマトリエンナーレ2011」は、過去3回とは主催者の枠組みも会場も異なる(11月6日まで)。震災を意識しつつ、親密な雰囲気の展示が展開している。
大きな渦巻き形の台に108個の映画フィルムのような円盤が載る。上着から下着まで一人分の衣服をほどき、糸状にして巻き上げたのだ。人生は一本の映画 と暗示する尹秀珍(中国)の作品で、奥にはオノ・ヨーコの透明なアクリル板による迷路が。展示導入部、横浜美術館のエントランスには、驚きや暗示という現 代美術らしい作品が並ぶ。
「OUR MAGIC HOUR 世界はどこまで知ることができるか?」をテーマに、同館と日本郵船海岸通倉庫を中心に、21カ国・地域の77作 家が約300点以上を展開。総合ディレクターの逢坂恵理子・同館長は震災に言及し、「世界には掌握しきれない複雑さがある。謙虚に何が可能かをアートを通 し感じてほしい」と話す。
同展は従来、国際交流基金と横浜市が主催の両輪だったが、事業仕分けで基金が離脱。文化庁から2億円の支援があり、予算規模は約9億円と前回並みだが、同市中心の催しとなった。
加えて、同館が初めて主会場に。イベント場や倉庫で開かれた過去3回より非日常性は減じたが、導入を含め美術専用の空間を生かした周到な展示で、落ち着いて作品と向き合える。
白砂の上を、ほうきを手にした女性たちが、前を行く女性の足跡を消して歩み続けるミルチャ・カントル(ルーマニア)の神話的な映像作品も、その一 つ。大いなる徒労、生成と消滅など多様な思いが去来する。全体に、幻想的な作品が多く、マグリットなど同館の所蔵品と現代作品を対比して見せる試みもあ る。
日本郵船会場は、樹木がそのまま展示されたり、開催中のベネチア・ビエンナーレで最高賞を受けたクリスチャン・マークレー(米国)の映像作品が上 映されたり、と祝祭性も。ジュン・グエン・ハツシバ(ベトナム)は被災地や日本への励ましの思いを込めて、ホーチミン市と横浜市の地図上に桜の花が浮かぶ 映像を見せた。自身やボランティアが両市内を走った軌跡が桜の形になっているのだ。
今回、海外からの来場者の目を意識し、日本の現代作家が全体で約30作家も選ばれている。多くが、つつましい、あるいは優しい表現を見せる。ベテ ラン勢では横尾忠則は夜道をさまようような絵画を、荒木経惟は「被災花」と題した写真を見せ、若手も細かい線描などを展開。典型は、ほとんど気づかない小 さな鉄塔を髪で作った岩崎貴宏か。
出品作家の田中功起は「僕らは支配的ではない意見に耳を傾けてきた。震災や原発事故で政府や企業の信頼がなくなった今、大きな意味を持つ。これからは速さより深さ。ヒントがここにある」と話す。
三木あき子アーティスティック・ディレクターも、所蔵品の利用や日本人作家の起用を踏まえ、「新しさや国際性について、問い直したかった」と語った。
国内の大型国際展が増えた今、横トリの独自性とは何か。今回は親密な雰囲気の中で、つつましさや謙虚さ、複眼的な発想を見せる道を選んだように映る。それらが、真の強さにつながると言うかのように。(編集委員・大西若人)
大きな渦巻き形の台に108個の映画フィルムのような円盤が載る。上着から下着まで一人分の衣服をほどき、糸状にして巻き上げたのだ。人生は一本の映画 と暗示する尹秀珍(中国)の作品で、奥にはオノ・ヨーコの透明なアクリル板による迷路が。展示導入部、横浜美術館のエントランスには、驚きや暗示という現 代美術らしい作品が並ぶ。
「OUR MAGIC HOUR 世界はどこまで知ることができるか?」をテーマに、同館と日本郵船海岸通倉庫を中心に、21カ国・地域の77作 家が約300点以上を展開。総合ディレクターの逢坂恵理子・同館長は震災に言及し、「世界には掌握しきれない複雑さがある。謙虚に何が可能かをアートを通 し感じてほしい」と話す。
同展は従来、国際交流基金と横浜市が主催の両輪だったが、事業仕分けで基金が離脱。文化庁から2億円の支援があり、予算規模は約9億円と前回並みだが、同市中心の催しとなった。
加えて、同館が初めて主会場に。イベント場や倉庫で開かれた過去3回より非日常性は減じたが、導入を含め美術専用の空間を生かした周到な展示で、落ち着いて作品と向き合える。
白砂の上を、ほうきを手にした女性たちが、前を行く女性の足跡を消して歩み続けるミルチャ・カントル(ルーマニア)の神話的な映像作品も、その一 つ。大いなる徒労、生成と消滅など多様な思いが去来する。全体に、幻想的な作品が多く、マグリットなど同館の所蔵品と現代作品を対比して見せる試みもあ る。
日本郵船会場は、樹木がそのまま展示されたり、開催中のベネチア・ビエンナーレで最高賞を受けたクリスチャン・マークレー(米国)の映像作品が上 映されたり、と祝祭性も。ジュン・グエン・ハツシバ(ベトナム)は被災地や日本への励ましの思いを込めて、ホーチミン市と横浜市の地図上に桜の花が浮かぶ 映像を見せた。自身やボランティアが両市内を走った軌跡が桜の形になっているのだ。
今回、海外からの来場者の目を意識し、日本の現代作家が全体で約30作家も選ばれている。多くが、つつましい、あるいは優しい表現を見せる。ベテ ラン勢では横尾忠則は夜道をさまようような絵画を、荒木経惟は「被災花」と題した写真を見せ、若手も細かい線描などを展開。典型は、ほとんど気づかない小 さな鉄塔を髪で作った岩崎貴宏か。
出品作家の田中功起は「僕らは支配的ではない意見に耳を傾けてきた。震災や原発事故で政府や企業の信頼がなくなった今、大きな意味を持つ。これからは速さより深さ。ヒントがここにある」と話す。
三木あき子アーティスティック・ディレクターも、所蔵品の利用や日本人作家の起用を踏まえ、「新しさや国際性について、問い直したかった」と語った。
国内の大型国際展が増えた今、横トリの独自性とは何か。今回は親密な雰囲気の中で、つつましさや謙虚さ、複眼的な発想を見せる道を選んだように映る。それらが、真の強さにつながると言うかのように。(編集委員・大西若人)
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